低年齢での避妊/去勢手術を考え直すべき3つの理由

This article is translated with permission of Dogs Naturally Magazine. To subscribe, visit www.dogsnaturallymagazine.com

— この投稿は Dogs Naturally Magazine から日本語翻訳を条件に転載許可をとっています。
英語原文を読みたい方はこちらからどうぞ —

 

 

避妊/去勢手術は多くの飼い主たちにとって気の重いテーマです。

避妊/去勢手術は、今では飼い主の「義務」となり、この手術がもたらすメリットはよく聞くものの、そのリスクについて聞かされることはほとんどありません。

そして、知識豊富な飼い主たちが、そのリスクを軽減するために低年齢での避妊/去勢手術を避ければ(または、まったくやらなければ)、ペット過密化問題に寄与しているといってしばしば非難されます。しかし、感情にもとづく決断が最善の決断であることはめったにありません。

そこで本記事では、この論争の原因を客観的かつ科学的な見地から見ていくことにします。
 

まずは、避妊/去勢手術を考え直すきっかけとなった直近の理由から…

2014年2月、2500頭以上のビズラ犬を対象とした研究が終了し、その結果が避妊/去勢手術の熱心な擁護者を驚嘆させました。しかし、この最新の研究結果は、犬の内分泌系の4分の1を切除することが、その犬のためにならないかもしれないことを――そしておそらく、保護者やシェルターの最善の利益にもならないかもしれないことを――示している多くの研究結果のうちの1つにすぎません。

では、避妊/去勢手術を考え直すべき3つの重要な理由とともに、この研究を見ていくことにしましょう。
 

1.避妊/去勢手術と関節疾患

前述のビズラ犬の研究については後ほど見ていきます。この研究では、避妊/去勢手術と関節疾患との関係性が調査されませんでしたが、実際のところその必要はありませんでした――すでにその関係性を示す多くの研究結果があったからです。

 

股関節形成不全

ゴールデンレトリバーを対象としたある研究では、生後12か月までに去勢手術を受けた雄犬が股関節形成不全を発症するリスクが、去勢手術を受けていない雄犬の2倍に上ることが判明しました。(出典:Torres de la Riva G, Hart BL, Farver TB, Oberbauer AM, Messam LLM, et al. (2013) Neutering Dogs: Effects on Joint Disorders and Cancers in Golden Retrievers)

他の研究結果は、生後6か月までに避妊/去勢手術した犬の股関節形成不全発症リスクが70%増加することを示しています。この研究レポートの筆者ら(Spain et al, JAVMA 2004)は次のように述べています。

低年齢時の去勢による骨の伸長が関節形態を変え、それが股関節形成不全と診断される結果につながっている可能性はある

避妊/去勢手術が股関節形成不全のリスクを増加させ得ることを示す証拠はこれだけではありません。
 

Van Hagen氏ら(Am J Vet Res, Feb 2005)は、股関節形成不全と診断されたサンプル犬のうち、診断の半年前に去勢手術した犬の頭数が、去勢手術していない犬の約2倍に上ることを発見しました。

興味深いことに、Dannuccia氏ら(Calcif Tissue Int, 1986)の研究結果は、ビーグル犬の卵巣摘出が骨盤の再造形を促すことを示しており、これはすなわち避妊手術によって股関節形成不全のリスクが増加することも示唆しています。

 

十字靭帯断裂

前十字靭帯断裂もまた、多くの研究で避妊/去勢手術との関連性が指摘されています。

前述のゴールデンレトリバーの研究では、避妊/去勢手術していない犬に十字靭帯断裂が見られたケースはなかったものの、生後12か月までに避妊/去勢手術した雄犬の5%と雌犬の8%に十字靭帯断裂が見られました。

Whitehair氏ら(JAVMA Oct 1993)は、避妊/去勢手術をした犬が前十字靭帯断裂を起こす確率が、年齢に関係なく、避妊/去勢手術していない犬の約2倍に上ると報告しています。

Chris Zinc氏(獣医学博士/米国獣医病理学会免許保持者)は次のように述べています。

…ある犬が生後8か月で避妊手術または去勢手術を受けた時点で、大腿骨がすでに遺伝的に決定されている正常な長さに達しており、しかし通常は生後12か月~14か月で成長が止まる脛骨が成長し続けている場合には、膝関節において異常な角度が形成される可能性がある。また、さらに成長した場合、膝関節から下の下肢が通常より重くなり(通常より長くなるため)、前十字靭帯に余分なストレスが加わる可能性がある

さらに、避妊/去勢手術が骨密度の低下(Martin et al, Bone 1987)と肥満(Edney et al, Vet Rec Apr 1986)の原因になることもあります。

 

これらの要因はどちらも前十字靭帯断裂と股関節形成不全のリスクを高める可能性があります。さらに、避妊/去勢手術した犬が膝蓋骨脱臼を起こす確率は、避妊/去勢手術していない犬の3倍以上に上ります。

(関節痛をやわらげるウコンの効用についてはこちら[英語記事]をクリックしてください。)
そして、避妊/去勢手術にはさらなるリスクが潜んでいます。

 

2. 避妊/去勢手術とガン

一般通念とは異なり、避妊/去勢手術をしたからといってガンを予防できるわけではなく、実際のところ、この手術は概して多くの一般的な犬のガンの発症リスクを高めます。

 

雄犬vs雌犬:前述のゴールデンレトリバーの研究ではガン発症率に焦点を当て、生後12か月までに去勢された雄犬のリンパ肉腫の発症率が3倍に上ることを発見しています。興味深いのは、生後12か月より後に避妊手術を受けた雌犬の血管肉腫発症率は、避妊手術していない雌犬と比べ、さらには生後12か月までに避妊手術した雌犬と比べても、4倍以上に上っていたことです。また、生後12か月より後に避妊手術した雌犬の6%が肥満細胞腫を発症していた一方で、避妊手術していない雌犬では0%でした。

他の研究でもこれらと同じような結果が出ています。

最近のビズラ犬の研究結果は、避妊手術した雌犬は、避妊手術していない雌犬に比べ血管肉腫の発症率が著しく高い(9倍)ことを示しています。

さらにこの研究では、避妊/去勢手術した犬は避妊/去勢手術していない犬に比べ、肥満細胞腫の発症率が3.5%高く、リンパ腫では4.3倍に上るとされています。(M. Christine Zink, DVM, PhD et al., Evaluation of the risk and age of onset of cancer and behavioral disorders in gonadectomized Vizslas. JAVMA, Vol 244, No. 3, February 1, 2014)

 

避妊手術ありvs避妊手術なし:ガンの種類に関係なく、避妊手術した雌犬のガン発症率は、去勢した雄犬の6.5倍、避妊手術していない犬の3.6倍でした。

低年齢犬: 避妊/去勢手術時の犬の年齢が低いほど、ガンと診断されたときの年齢が低いことも分かっています。

Waters氏ら(Exploring mechanisms of sex differences in longevity: lifetime ovary exposure and exceptional longevity in dogs) は、雌のロットワイラーを対象とした自分たちの研究でも同じような結果が出ていることに気づきました。彼ら研究者たちは、避妊手術をしないことが長生きにつながるのかどうかを見極めようとしました。ロットワイラーでは、主な死因は卵巣ガンおよびその他のガンで、全死亡数に占める割合はそれぞれ38%、73%となっています。

すべてのガン死亡例を除外した場合、生後7歳まで避妊手術をしなかった雌犬が平均以上に長生きする確率は、生後早くに避妊手術をした雌犬に比べて9倍に上りました。避妊手術していない雌犬が平均以上に長生きする確率は雄犬を上回っていましたが、その優位性は避妊手術することで失われることが判明しました。

 

3. 避妊/去勢手術と行動

避妊/去勢手術はこれまで、しばしば行動に変化を生じさせる認知障害ならびに3倍にも及ぶ甲状腺機能低下リスクと関連付けられてきましたが、前述のビズラ犬の研究は、この関連性にきわめて興味深い洞察を与えています。

 

同研究では、避妊/去勢手術した犬は避妊/去勢手術していない犬に比べて行動障害も起こしやすいことが判明しました。

行動障害の例として次のものが挙げられています。

  • 嵐を怖がる
  • 分離不安
  • 騒音に怯える
  • 臆病
  • 興奮しやすい
  • 攻撃的
  • 活動過多
  • 不安から何かを噛む

別の研究では、去勢した犬は去勢していない犬に比べて次の傾向を示しがちであることが報告されています。

  • 攻撃的
  • 臆病
  • 興奮しやすい
  • 訓練しにくい

(Parvene Farhoody @ M. Christine Zink, Behavioral and Physical Effects of Spaying and Neutering Domestic Dogs, May 2010)

これらの研究結果は、去勢手術によって攻撃性や他の行動問題を緩和できるという一般通念とは逆です。

 

避妊/去勢手術は決まり事でも何でもない

これらの研究結果は、避妊/去勢手術を唱道しているシェルターや保護者たちに難しい問題を投げかけてもいます。

 

シェルターにいる犬の頭数を減らすことが重要な目標ではあるものの、それらの犬がシェルターに来なくていいようにすることのほうがもっと重要です。大半の人々は、シェルターが満杯になっているのはペットの過密化に原因があると考えていますが、飼い主が飼っている犬を捨てる一番の理由は問題行動です。

さらに言えば、シェルターが里親に、ガンや関節疾患の発症リスクが高い犬を引き取らせることは公平なことなのでしょうか?

生殖器の完全除去に替わる方法もあり、それらがガンや関節疾患、さらには問題行動のリスクを減らす上で大きな役割を果たす可能性があります。

 

避妊手術は「手っ取り早く月経を閉止させる」方法であり、明らかに生殖以外の目的にも関係している保護作用のあるホルモンの供給を即座にストップさせます。最新の避妊/去勢手術はホルモンと内分泌系に及ぼす影響がまだ少ないため、避妊/去勢手術した場合でさえ犬の安全性は高まります。

生殖器によって作られるホルモンは、生殖だけでなく次の要因の調整にも不可欠です。

  • ホメオスタシス(恒常性)
  • 体調
  • コレステロール値
  • エネルギーレベル
  • 排尿
  • 筋緊張
  • 認知
  • 行動
  • 最も重要なことは、免疫系においてもホルモンが大きな役割を果たすことです。

生殖器の除去によって多くのガンの発症率が高まることがその証と言えます。

 

その他の選択肢

雌犬の場合、部分避妊、すなわち卵巣を残した避妊手術、または卵管結紮(けっさつ)による不妊手術(※注1)が、より安全な選択肢です。

雄犬の場合、精管切除も安全な選択肢と言えます。最近注目されている「亜鉛注入」という方法もあります。本記事がきっかけとなり、もっと安全で無理のない選択肢を検討するシェルターが増えることを願っています。

 

最後に、もしあなたの犬に、関節疾患・ガン・問題行動とは無縁の人生を送る最大限のチャンスをあげたいなら、避妊/去勢手術をしないことがひとつの選択肢であることは間違いありません。

 

この記事をここまで読み進めるほどあなたが思慮深く、思いやりのある人なら、避妊/去勢手術していない犬をしっかり管理できるくらい注意深いに違いありません。去勢手術していない雄犬を外でうろつかせるようなことはせず、そして避妊手術していない雌犬は発情期中の数週間はリードにつないでおくことです。

 

あなたの犬の内分泌系の大部分を除去することは決まり事でも何でもありません。研究によって避妊/去勢手術がもたらす破滅的結果が次々に示されている中、あなたの犬にとっての最善の利益は、あなたが自分の親友を自然なままでいさせてあげるべき上記の3つの理由について真剣に考えることだと言えるでしょう。

 

※注1…子宮を残すことで、子宮蓄膿症のリスクがなくならないことがデメリットであると言われてます。

 

(翻訳:nottebianca Mayu Yuki)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です